SEIKO SEIKOMATIC-P 33J 5106-8020

この時計に手をつけたのはだいぶ前だったんですが、これの特徴の一つである押しボタンが仕込まれた

竜頭、これが固着していてどうにもならず、ずっと作業が止まっていました。

それが、最近になってようやく解決したので作業が続行できる運びになったのです。
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外観は並で、ガラスの傷の数は多くありませんが、深い傷があるため目立つ状態。

機械はきれいです。数えるほどしか分解されていない感じ。その割には針の傷が多いのが不思議です。
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ケースから出して針と文字盤、曜車を外しました。けっこう複雑そうです。
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写真の上の方にスネイルカムが見えます。瞬時切り換え式であることがわかります。

そのカムに連動して動く細長い部品が、日車と曜車を同時に駆動する部品です。空きスペースを

目一杯使って動くのでおもしろいです。

また、しの字形のバネが多用されています。飛ばさないように注意が必要です。


この時計の特徴であるプッシュボタン内蔵竜頭ですが、ボタンは巻真がねじ込まれていて、押すと

巻真が押し込まれ、日付を早送りする構造です。誤操作防止用の筒が付いているだけで、

スピードタイマーなどと同じと考えて差し支えないと思います。曜車を早送りできない弱点はあります。


さてこの竜頭の構造、いまだによくわからないのですが、おそらくゴミ・水分がたまりやすい形状

なのだと思います。中にたまったゴミが水気を呼び、何年も放置される間にバネをさびさせ、

固着させるのでしょう。この固着がまた頑固で、何十分も超音波洗浄機にかけても、何週間

CRC556に漬けても、何分ゆでても、びくともしませんでした。

最終的には、破損覚悟でボタン部分をハンマーとポンチで叩いたらすこしずつボタンが動き始めたので、

超音波洗浄を併用しながら中のさびを追い出し、使えるところまで持って来られました。

次の写真は、そのボタンが押されることで日付を早送りする部分です。
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この写真一枚では全然わからないと思いますが、ボタンが押されると、いくつかのリンクをへて

日車が廻されます。前述の瞬時切り換えレバーには退避機構がついていますので、日付が変わる

直前に早送りをしてもどこも壊れません。

次はスネイルカム周辺の拡大写真です。
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カムと日送り車は完全固定ではなくて、15度くらい回れるようになっています。カムが回って、

くの字のレバーが一番低いところに落ちるとき、一気にカムを15度ぶん押し戻し、それが長いレバーを

駆動して瞬間的にカレンダーを送ります・・・実物を見たことがある人はわかってくれるでしょうけど、

見たことないとこれだけじゃわからないですね・・・


輪列側は、自動巻機構が輪列と同じ面に並べられています。また、一番受けを外したら、その裏側に

びっしり(と言うほどでもないですが)部品が。
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普通は一番受けの上に付いていることが多いと思います。

輪列は秒カナを使ったタイプですが、秒カナが噛み合う3番車が、シチズンでは一般的な

ダブル歯車になっていて秒カナのふらつきを抑えていますので、前回のロンジンみたいな

銅板の押さえはありません。
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写真上の方に見えるくの字のレバーが秒針規正レバーです。四番車の歯先を押さえて秒針を

止めるのですが、組む時にはちょっとだけ手間がかかります。くの字のレバー下に見える穴に楊枝の

先端のようなものを差し込んで、レバーを四番車から離しておかないと受けをかぶせられないのです。



部品洗浄後、地板にダイヤショック、ダイヤフィックスを取り付けるところから始めます。

ダイヤショックは問題ないのですが、この時計は女性用に使われているダイヤフィックスが流用

されていて、バネの着脱が大変やりにくいです。一番受けのやつも含めて半分は変形させて

しまいました。このバネを傷つけたり変形させたりせずに着脱できる人はいるのでしょうか・・・


ダイヤフィックス、ダイヤショックを取り付けたらひっくり返して香箱、輪列を組み付けます。
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この写真では秒針規正レバーがついていませんが、一度つけ忘れてしまい、やり直す羽目になりました。

一番受けを組み立てます。バネなどがないので、思ったより簡単でした。
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その一番受けをかぶせます。受け石をつけて、アンクルをつけて注油、自動巻の部品をつけて

テンプをつけて、輪列側はほぼ完了。
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前回のロンジンから、アンクル取り付け後に一歯ずつ進めながら注油する方法をとっています。

その前の方法とこれと、どちらがいいのかわかりませんが・・・


あとは日の裏側をこつこつと組んでいきます。
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曜車、文字盤をつけて、カレンダーの動きを確認しました。そうしたら、一度半分くらい白目を剥いて

止まり、そこから3時間くらいのところでもう半分進むという動きでした。どう考えても正常じゃ

ない、というわけで文字盤と日車押さえをはずして竜頭を廻してみました。

そこでわかったのは、最初に半分動いたところでカムの方は一番下まで落ちている。ただ、日車の

躍制レバーが日車の爪を乗り越え切っておらず、そこで止まっていることがわかりました。

日車だけを回してみると、やはり躍制レバーが一番引っ込むあたりで強い抵抗があります。

そこで、日車の歯すべての先端にオイルをちょっとつけて再度トライしたところ、今度はちゃんと

一発で切り替わりました。

現行の新しい時計でも、日付の早送りの時に感触の悪い(壊れそうな感じのする)ものがありますが、

これと似た状況なのかもしれません。


針をつけてケースに入れて、
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ローターをつけて完成。風防はクリア塗装のみです。
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また、竜頭の外周部は触るとぐらぐらしますが、特別邪魔にはなりませんし、実用上は

問題ありません。