LONGINES ULTRA-CHRON Cal.6651

先日一番受けのネジが折れたことについて書きましたが、今回の時計がそれです。紆余曲折を経て、

何とか完了したのでその顛末を書いています。

時計はロンジンのウルトラクロン。ちょっと前にスクェアのウルトラクロンをやったばかりですが、

お付き合いください。

いつもの通り、まずは正面と裏面の画像です。手ぶれしてますがご勘弁を。
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風防を外して機械を取り出してみたところ、前回のスクェアに搭載されていたCal.431ではなく、6651でした。

Cal6651は簡単に言うと431の振動数を8振動に落としたものです。

また、微動緩急針が偏心ネジ式からトリオビス式に変わっています。
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さて、機械の分解に入ります。日の裏側は431と変わりません。カレンダーの瞬時切り替えを比較的

簡単な構造で実現しています。
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次に表側を分解していきます。431との違いは、テンワ・ひげゼンマイ・アンクル・ガンギ車あたり

でしょうか。テンワの大きさは明らかに違いますね。
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自動巻きのモジュールです。たくさん部品がありますが、組み立ては楽です。
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香箱。DO NOT OPENと書いてありますが、スリップチェックの結果潤滑が足りないと判断。

開けて洗浄、注油をします。自作8201使用です。
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分解・洗浄が終わり、組み立ての準備ができたところで組立開始。順調に輪列を組み始め、

受けのネジの一つを締め込もうとしたところで異常を検出。トルクがじわーっと上がっていく感じです。

これは何か異物を挟んでいるか、部品が乗り上げている場合の感触ですので、あわてて

緩めました。ところが、取れたのはねじの頭のみ。ネジを折ってしまったのです。
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残りの2本は生きているので、このまま組立を続行しようかとも考えましたが、好きな機械なので

折れたネジを除去することにしました。

その方法はいくつかあると思いますが、機械そのものにダメージを与えない方法は2つしか思いつきません。

一つはねじ抜き器を使うことですが、高いので断念。

もう一つは、鉄を溶かす液体を使うこと。こちらは、ネジ以外に鉄の部分があるとそこも攻撃されて

しまう欠点があります。しかし残された手段はこれしかないので、ネットで注文。国内の業者だというのに

送金から1週間たっても商品はおろか一切の連絡がないので問い合わせをしたのですが、その

回答もないまま、翌日ブツが到着。もう利用しません。


さっそく使ってみましたが、反応は思ったより緩やかで、ちょっと拍子抜け。ネジを溶かし切るのでは

なく、少し溶けて緩んだら除去するという使い方でしょうか。

副作用として、めっきが剥げたのか一部銅色に変色してしまいましたが、ネジは取れました。
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地板を洗浄して組み始めたところ、地板の緩衝装置の中に埃が入ってしまっているのを発見。

見つけてしまった以上放置できないので分解してゴミを除去。再び取り付けてショックばねを

はめようとしましたがうまくいかず、ついに折ってしまいました。


本来バネというのは地板と枠に挟まれていて、簡単には抜けないようになっているはずですが

取れてしまいました。この時点ですでにどこかに問題があるわけですが、深入りはせず初回は何とか

取付完了。しかしホコリの侵入で分解を余儀なくされた結果、二度目の取付では無理な力が

加わったのかバネを折損してしまったのです。

ようやくキフ搭載のドナーを見つけてバネを取り出しましたが、
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摘出したバネがなかなかはまらず、そのうち紛失。

次は根本的に直そうと、テンプ側のバネを取り出して地板側の枠も交換したのですが、

やっぱりバネが外れます。枠を圧入する部分の地板が薄すぎるか、耐震装置の選択が

適切でなかったなどの理由でしょうか?

これを壊したら後がありませんので、上から注意深くバネを押さえながら何とか取付完了。


その後表側は順調に組立が進み、日の裏へ。
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筒カナを二番車にはめる段になりました。挿入の荷重は十分大きいのですが、はめた後の

フリクションが全くない状態。これでは秒針だけが元気に動くことになります。

外してかしめますが、加減がわからず何度も外してはかしめの繰り返し。4回目にようやく

満足できるフリクションになりましたが、筒カナの挿入荷重がかなり大きくなってしまい、

壊れるかと思いました。

続いてオシドリ周りの組み付け。構造に変なところはないが、カンヌキバネがかなり強く、

なかなかはまりません。そのうちどこかへ飛んで行ってしまいました。

2,3時間捜索するもみつからないので、ドナーのバネを加工して使用。
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一通り組み付けが完了したので文字盤を付ける前にカレンダーの動作確認をしたところ、

動作自体はしているものの、送りレバーのストロークがわずかに足りず日付を送れない模様。

原因の場所はすぐ特定できました。以前やった431の写真と比べると、明らかにここに手が

入っていますが、直しきれなかったのか再発したのか。ポンス台でたたいて肉を広げ、

ストロークを確保。これで日送りするようになりましたが、再発するかもね。
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そしてようやく文字盤の取り付け。日付窓と文字がずれているのが気になりますが、

干支足を調整してもあまり変わらないので、傷を深くする前に断念。

次に針を挿したが、秒針が水平に回らない。針を曲げてみたが解決せず。

秒カナの軸が曲がっている模様です。秒針を外して真上から見ると、軸が筒カナの中心にありません。

そこで、やけくそで軸を間隔の広い方へぐいと押したら中心付近に来ました。やってみるもんだ。

短針を一周回して、針同士やインデックスとの干渉がないことを確認して風防取り付け。

そしたら今度は風防の内側に秒針が当たって止まります。やれやれ。

ああだこうだと修正して、何とか止まらなくなったのでベゼルをはめて、ようやく完成。長かった・・・
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作業が終わって道具を片付け、ふと机の上に目を落としたら、なんと!! 何時間も探して見つからなかった

カンヌキバネが!! 一体どこから? 

元に戻す気力はないので、6651のカンヌキバネであることを明記して保管しておくことに。

キフのバネも見つかるといいな・・・


タイムグラファーのグラフは割とまっすぐで、姿勢差も少ないので機械の素性は悪くないようですが、

とにかく手がかかった時計でした。まあ、その手間の半分以上は時計のせいではないんですけどね。


この機械、受けなど表側の部品はロンジンらしさを残していますが、Cal.291などで見られた部品の

強度、仕上げなどはなくなり、かなりコストダウンが進んでいるという印象を受けました。地板などは

国産普及機並みと言っても過言ではありません。