風防の反射防止コーティング

 ある程度の価格以上になると、風防にコーティングしてある時計が多い。コーティングしてあると、非常に見やすくなる。ブラックバードに限らず、ちゃんとした反射防止コーティングをされた時計を見てしまうと、コーティングしてない時計を見るのが苦痛になるくらい(ちょっと大げさかも)だ。なんとしても手持ちの時計にコーティングしたい。

 そこで、とりあえずインターネットでコーティングをやっている光学関連企業を探した。すると簡単に、一品から対応するという会社が見つかったので電話してみた。簡単でいいので図面を送ってくれれば見積もりをしてくれるというので、コーティングに求める機能性能とコートしたい風防のサイズ、数量を書いて送った。見積もりはメールで返ってきたが、金額はやはりちょっと躊躇する額だった。

 それでも、見るたびに不満を感じながら使うよりはいいし、そういうところにお金を使うのもありなのではないかと考えて、施工をお願いすることにした。
 費用は一個あたりではなく一釜、つまり一回当たりの金額なので、同時に施工する風防の数が多いほど単価が下がる。同好の士を募るか考えたが、うまくいくかわからないし、どれが誰のものか管理するのもめんどうなので、自分のものだけでやることにした。

 業者さんが言うには、施工時に熱を加えるので風防単体にしてほしいとのこと。ブレス、ムーブメント取り外しまでは簡単だが、どうやって風防だけにするのだろう。インターネットで時計メンテの動画や画像を探してみた。どうやら、少なくとも自分が所有する時計はガスケットで止まっているだけらしいことがわかった。風防を再圧入する際、ガスケットを新品にするべきだが、入手が出来るのか、出来ても素人作業で防水性能が維持できるのか、という不安があったのと、材質が違うと施工結果に問題が出るかもしれないと思い、今回の対象はパチ時計だけにすることにした。

 まず、スピットファイアーから恐る恐るやってみた。風防裏側にゴムの工具を当て、床においてラグを上からぐっと押す。すると、バチッという音を立てて風防が外れた。
 一個成功すれば後は同じである。風防のサイズに合わせてゴム工具を換えながら、次々に外していった。

 さて、次は表面研磨である。表面に余分なものが付いていると強度は低下するし反射防止性能や反射光の色にまで影響してくるのだ。
 今回使用した研磨材は「キイロビン」。車のガラスの油膜取り用だが、主成分の酸化セリウムはガラスの研磨材として有名。コーティングを剥がすのは簡単だろうと思った。このキイロビンを布につけて、風防をごしごし擦った。しかし、いっこうに削れてこない。そこで作業の効率化をはかるため、電動工具を使うことを考えた。まず、風防をくっつけるのにちょうどいい大きさの吸盤を用意し、これの脚部分を電動ドライバーに装着。しっかり固定できなくても、摩擦で回転が伝わる。そして吸盤に風防を取り付け、回転させながら表面を磨いていく。時間がかなりかかったが、コーティング除去に成功。表面の脱脂を念入りに行い、一個ずつ紙に包んで業者さんに送った。

 発送から1週間ほどで風防が戻ってきた。早速開けてみると、その出来に思わずうなった。送る前の風防は、周囲のものをかなり反射したので、風防の向こうが見えにくい。施工後のものは反射がほとんどなくなり、角度によっては何もないようにも見える。これほど期待通りの結果になるとは。高いお金を出しただけのことはある。

 さっそく時計の復元に取りかかる。風防がどうやって固定されているのかわかった段階から、今度はどう取り付けるか考えていたから、準備は出来ている。ケースに風防を乗せて圧入パンチを置き、木片で上下を挟んでシャコ万で締め込むのだ。この方法は安く上がるが風防を平行に押せないので、ヘタをするとガスケットをかじってしまう危険がある。だから、少し押し込んでは押す位置を調整しながらすべてを圧入しなくてはならない。

 これができれば後は簡単だ。ムーブメントをケースに収め、裏蓋をねじ込み(念のためOリングにはグリスを塗布)、ブレスをつけて完成。 あああ、見違えるようになったぜ、スピットファイアー、ブラックバード。ダトラ、おまえもだ。