RICOH PUNCH その2

xリコーパンチの続きです。

実はこの時計、手元に二つあるんです。一つ目を手に入れたのはかなり前ですが、どうも自動巻きが

動いていない。裏蓋を開けたら、その内側に「2011.5.27 OH 自動巻部品破損損につき手巻きで使用」

とマジックで書いてありました。そのため、使用も分解もする気にならず、そのままになっていました。

その後、だいぶ時間が経過してまた同じ時計を落札しましたが、それが前回書いたような結果に

なってしまったので、こいつを部品取りドナーにして、1個目を修理することにしたのです。


というわけで、「自動巻きの部品破損」の方を分解してみました。とりあえず受けを外したところ、

欠品部品が判明。卍形のバネがついた伝え車?が入っていません。

これを移植すれば、自動巻きは働くようになるはずです。
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また、自動巻きのコハゼはバネの形状がずいぶん違い、ただのストレートですが、こちらが

正しいような気がします。
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気になるのは、この個体も針回しが重く、逆回し時にガリ感があることです。このままでは

また小鉄車まわりのトラブルが予想されるので、対策することにしました。

まずは注油で分針カナと筒カナの摩擦が減るか確認します。

多少多めに注油してみましたが、ほとんど変化がありません。そこで次に筒カナのつぶしてある

ところを広げ、分針カナとの摩擦を減らそうと試みました。緩くなったのをきつくするのは楽ですが、

逆は難しい。つぶしてあるところの両側をニッパーで握ってみましたが、これも変化なし。

筒カナの摩擦低減はあきらめ、別の対策を考えました。

鼓車から小鉄車あたりまでをよーくみますと、小鉄車の磨耗は一個目より少ないのですが、

鼓車と小鉄車の噛み合いは一個目と同様に浅いことがわかりました。
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試しにカンヌキを小鉄側に押してみると噛み合いが深くなり、その状態で竜頭を回すと

ゴリゴリ感はかなり軽減しました。

その状態を維持するための方法として、カンヌキの先端を曲げる・竜頭を引いた時にカンヌキと

オシドリが接するところを叩いて伸ばすという二つの方法が浮かびましたが、簡単な方(カンヌキ

先端を曲げる)を選びました。

前回より大胆に力を入れて曲げたところ、折れることもなくしっかり鼓車を小鉄車に押し付けてくれる

ようになりました。
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ただ、鼓車の溝の中での角度が大きくなったことにより干渉が発生したため、カンヌキ先端の右側を

削って溝に収まるようにしました。

これで問題は解決したはずです。あとは、全バラするかどうかです。昨年OHしたとのことで、

確かにオイルは残っていますので迷いましたが、分解前には止まりが何度か発生していたことから、

分解掃除を一通りやることに決定。

この時計の緩衝装置はNovodiacですが、今回こんな治具を作ってみました。爪楊枝を枠の内径の太さで

切り、先端中心部を少しえぐっただけですが、作業はかなり楽になりましたよ。
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分解が終わったら、いつものように洗浄して組立です。

この辺は前回と同じですので割愛して、テンプを取り付けました。テンワは軽やかに振動している

のですが、何か違和感があります。理由はすぐわかりました。アンクルが動いていないんです。

洗浄中、ルビーのかけらみたいなものを見たような気がしたので穴石を調べました。

しかし、どこも欠けていなかったのでそれ以上調べなかったのですが、もしかしたら・・・

急いでテンプを外し、ひっくり返してみました。すると案の定
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振り石がありません。洗浄中に見たルビーの破片は、振り石だったようです。

分解前に止まりが発生していたのは、振り石がぐらついていたからかもしれません。それが洗浄により

止めを刺され、取れてしまったのではないでしょうか。


振り石なんかもう絶対見つからないので、部品取りドナーからテンプ一式移植することにしました。

しかし、今度はテンワが振動しない・・・アガキが足りないようです。

元の地板を使えば問題ないはずなので、地板交換が一番確実な方法なのですが、二個とも総ばらし

しなければならないので、それは勘弁してくれということで、違う方法を考えましょう。

テンプ受けと地板の間に何か挟むとか、地板に打痕をつけて浮かせるとかを考えましたが水平に浮かせる

自信がないので、一番簡単な方法として地板側の緩衝装置をほんの少し日の裏側へ押し出し、アガキを

作ることにしました。禁じ手かもしれませんが。

ここでまたポンス台の登場です。前回の失敗があるので慎重にやります。ハンマーをポンチに当てるだけ

の感じで、やさしくやさしく。
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これでテンワが動くようになりました。
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残りの部品をつけていきます
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日の裏側に移ります。問題の小鉄車を他の機械と比べてみました。左はオリエントの手巻きムーブ

です。厚みがぜんぜん違いますね。当然強度も違うと思われます。設計ミスじゃないのかなー。
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小鉄車と鼓車がしっかり噛み合うことを確認します。
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その他の部品をつけて
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文字板と針をつけて
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磨いたケースに入れて
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完成です。
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今回も本当にいろいろなことがありました。良品のはずの2個の時計がどちらも故障品だったというのは

本当に情けないですが、ニコイチでまともな時計が一個できたというのは不幸中の幸いでした。