BUREN SUPER SLENDER 30J Cal.1001Aを分解する

今回は、BURENのSUPER SLENDERをやっつけようと思います。

分解前の状態は、不動、針回しもできず、という状態。

金めっきケースですが、ガラ箱の中で相当揉まれたみたいにラグのめっきが剥げています。
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針、文字盤もけっこう傷んでいますが、裏蓋は大きな傷もなく、磨けばきれいになりそうです。
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機械は予想以上にきれいですね。一瞬手巻き時計かと思ってしまいましたが、

マイクロローターの自動巻きでした。
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BURENのCal.1000ファミリーは最初にマイクロローターを搭載した系列だそうですが、

素の1000は二針、Aが付くと三針、下一桁が1になるとカレンダー付きを表すようですので、

この時計に搭載されているCal.1001Aは三針カレンダー付きということになります。

のちに厚さが2/3以下に改良されて1280ファミリーとなり、世界最初期の自動巻きクロノグラフ

クロノマチックのベースムーブメントとなりました。

実はマイクロローターは初めてではありません。ずいぶん前にユニバーサルジュネーブの時計を

やったんですが、ローターの軸受け石が割れていて、自動巻きとして使えないので

記事にしませんでした。

それからずっと部品を探しているのですが、なかなか見つからず現在に至っています。


今回の機械は、それとは違う構造みたいなので、写真を撮りながらじっくり分解していくことにします。

まずは日の裏からです。機械台に乗せようとしたら、かなり広げる必要がありました。

径がかなり大きいようです。マイクロローターを入れるスペース分、径は大きくなってしまうのでしょう。
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ちょっと変わっているのは日送り車です。直接筒車と噛み合っているのですが、上下二段で

噛み合ってます。
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この日送り機構の考察は、のちほどじっくりやります。実はこの日送り車がトラブルの原因だったんです。
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カレンダーは、日送り車以外はジャンパーと日車、日車押さえがあるだけのシンプル構造。

巻真周りもノンデイト時計と同じです。
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この大きなルビーが気になりますね。
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次に表側を分解します。撮影の前にテンプを外してしまいました
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これは丸穴車の上につく部品で、自動巻きと手巻きを切り離す役目を持っています。
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日の裏に対して部品点数が多いです。

次に主ゼンマイを解放するため、自動巻きの一部を外します。

ほんとは巻真周りを分解する前にやるべきなんでしょうが、ついつい・・・
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主ゼンマイを解放したら輪列の分解です。まずは角穴車から。二段になっていて、上が手巻き、

下が自動巻きを引き受けているようです。

三番車はダブル形で、秒カナ特有の秒針のふらつきを抑えています。
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さて、いよいよ自動巻きの核心部分を分解します。なぜかローターが外れないので、受けごと外します。
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受けの下には3つの歯車が並んでいましたが、おもしろいのは真ん中の歯車に軸がなく、

大きなルビーの上で自由に動くようになっていることです。実際には3つの歯車で囲まれるので、

それほど動かないと思いますが、この動きがローターの回転を一方向のみに整流して伝え車に

伝える働きをしています。

これで分解が終わりました。香箱も、スリップチェック結果が微妙なところでしたが分解しました。
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洗浄後は組立です。まずは香箱からですが、今回から香箱グリスにはモリコートDXペーストに

モリブデン粉末を混ぜ込んだものを使うことにしました。スリップチェックはばっちりです。

通常ですと香箱・二番車あたりから組み付けていきますが、この機械は自動巻きの部品が

一番深いところにあるため、ここから組み付けていくことにしました。3つの歯車、ローター真を

置いて受けをかぶせます。
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大きなルビーの上に乗る軸のない歯車に注油するかどうか迷いましたが、ちょっとだけ塗布することにしました。

そのあとは二番車と香箱を組み付け、一番受け周りを組み立てていきます。
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二段になった角穴車の下側の歯車は、穴が丸なので角穴車とは呼べませんね。

自動巻きでこの歯車が回ると、その動きが三つ明いた小さな穴に角穴車の裏のフックが

ひっかかることで角穴車に伝わるようです。

ここの組み付けが終わったら三番車以降を組み付け、
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ざら回し、アンクル取り付けと動作確認をした後、テンプ取付。
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ここでトラブル発生。緩衝装置がない状態ではテンワが振動するのですが、

つけるとだんだん振り角が落ちて、止まります。

付け直したり洗いなおしたりしてもだめ。アガキが足りないようです。そこで、地板側の緩衝装置の枠を

ポンス台でちょっとだけたたいた結果、元気に動くようになりました。こんなんでいいのか・・・

ローターをつけて、表側は完了。
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日の裏に移ります。こちらは簡単な構造ですので、組み付けはすぐ終わりそうです。
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日送り車の取り付け時、決められた位相があるような気がするので、日車を付ける前に動作確認をしてみました。

ここでまたトラブル発生。日送り車が半周しないうちにがちっと止まるのです。これでは針回しはもちろん、

時計自体が止まりますのでどこかが、何かがおかしいはずです。

あれこれいじって考えた結果、日送り車自体に問題があると判断。

分解してみることにしました。隙間にカッターナイフを差し込んで少しずつこじり、分解に成功。

4つの部品から構成されていました。この構成で爪が出入りしつつ回転し続けるような組み付けはこれしかない、
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という状態で上のプレートを圧入。恐る恐る回してみたところ、止まることなく回り続けました。

安堵感と達成感を感じた瞬間ですが、どうしてそうなっていたのかは不明です。何かのはずみで変わるとは

思えないので、組み直しをした時に間違えたんだろうと思いますが、なぜ分解したのか?また別の疑問が。

それはともかく、これを地板に取り付け、針回ししてみたところ、日送り車が24時間で爪が出たり入ったりしながら

5周することがわかりました。爪が一番出た時に日車の内歯に当たるような位相で取り付ければいいわけです。

一見単純に見えて実は凝った動きをするのは、おそらく日付が切り替わり始めてから切り替わるまでの時間を

短くしようという意図があるものと思われます。実際、0時20分くらい前から日車が動き始めます。

ロンジンのCal.291もかなり凝った構造で日送り時間を短くしようとしていましたね。

瞬時切り替え機構実現までの過渡的な構造なのでしょうか。

日車ジャンパーをつけて
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日車押さえをつけて
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これで機械は完了。あとはケースです。金めっきケースの場合、いつもなら

軽く磨くだけで済ませるのですが、これはサイドにけっこう深い打痕があるので削ることにしました。

そうするとめっきが薄くなるので、どうせなら全体を削って磨いて、めっき工房で再めっきしよう、

ということになりました。

ただ、磨き始めると20ミクロンのめっきは意外に厚いようで、なかなか地がでません。

めっきを全部落とすのは大変だということで、元の金めっきを残したままめっき工房をかけることに。

まあ、やらないよりはいいという感じに仕上がりました。

文字盤と針をつけて
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そのケースに入れて
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完成。
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風防はきれいでしたが、別の時計のものを削って入れてあるようでした。簡単に外れます。

裏蓋には「WATER PROOF」の文字があるので、風防の内側にはテンションリングが

あったはずと思いますが、それがありません。ぱっと見は違和感がないので、これ以上は

追及しないことにします。

ちょっとトラブルはありましたが、面白い機械でした。マイクロローター(ビューレンはミニローターと

呼んでいたらしい)は巻き上げ効率が悪くて廃れた、という文を読んだことがありますが、

ローターはくるくるよく回るし不動作角も少なそうです。

実際に12時間ほど使った後に放置したら38時間動いていたので、巻き上げ効率は

悪くないと思います。




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