SEIKO SpeedTimer 6139-6000 (分解洗浄編)

ケース編からだいぶ間が空いてしまいましたが、分解洗浄編をお送りしたいと思います。

ケースから取り出す前にローターを外します。そしてケースから取り出したら、針を外します。

12時とか6時に合わせてからビニールシートをかぶせて、剣抜きで3本まとめて抜きます。

写真は、撮影者の腕が2本しかないため剣抜きが1本しかありませんが、実際には

両側に1本ずつ当てて、ゆっくり倒すようにして外します。
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30分計の針も同様に外したら、文字盤の足を固定しているねじ2本を取って

文字盤を外します。

文字盤を外すと、カレンダーディスクが出てきます。内側の曜車は、湾曲した薄い

座金で機械側に押し付けられているだけの時計が多いのですが、この機械は

Cリングで抜けないようになっています。
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Cリングの下にマイナスドライバー等を差し込んで、Cリングを外します。
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曜車を外したら日車を外します。日車は2,3個の日車押さえで留められていることが

多いのですが、この機械の場合は大きな押さえ一つで留められています。

日車押さえは日車以外の部品の脱落防止を兼ねていることが多いですが、

この機械ではそれらの部品の位置、固定ねじの位置と個数の関係、

また曜車のジャンパーを一体化させるなどの理由で大きな一体ものになったと

思われます。

ねじ4本を取ると、日車押さえが外れますので、日車も外します。
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細いばねは使われていませんので、気が楽です。外せるものからどんどん

外していきます。ほとんどの部品は留めているねじを外せば分解できますが、

筒カナという部品だけは外れません。私はここで剣抜きを使って外しています。
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これは安物工具セットに入っていたもので、最初は針を取り外す時にも

使っていましたが、一度針にダメージを与えたことがあったので剣抜きとしての

使用はやめ、今は筒カナ抜き専用工具になっています。

私がいつも文字盤側から分解するのは、この工程があるからです。

(その必然性がない場合ももちろんあります)

日の裏側が分解完了しました。ガンギ車の保油装置がついていますが、

洗浄後に汚れが残っていた場合のみ分解します。超音波洗浄で意外に

きれいになること、分解時の変形・破損や紛失の可能性が高いことから、

必要のない分解のリスクを避けることにしています。
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次は輪列側です。ローターがこすった跡がないところをみると、使用頻度は

少ないようです。
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自動巻き部分を外しました。マジックレバーはいつ見ても感心しますね。

わずかな部品点数で高効率両方向巻き上げを実現しているんですから。
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主ゼンマイはほとんど解放されているはずですが、一応確認します。

トライバーで角穴車ねじを右に少し回します。トルクを感じなければいいのですが、

もしトルクを感じたら、赤丸内のコハゼをピンセットで押さえ、角穴車の歯との

噛み合いを解除し、ドライバーを今度は左に少しずつ回します。トルクを

感じなくなったら解放完了。
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ゼンマイのトルクが強い時にこの作業をやると、ドライバーが滑って部品に傷が

ついたりしますので、十分気を付ける必要があります。


次にクロノグラフ受けを外します。この受けにはねじ止めされている部品が一つ

ありますが、あえて外さず、このまま洗浄に進みます。
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太いばね、細いばねを外し、復針レバー・発停レバー・分クロノグラフ車、

コラムホイール、角穴車を外していきます。一番受けにはめ殺しされている

部品が多いので、取り外す部品は少なめです。
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一番受けを外すと、ようやく輪列が見えてきます。上から順番にはずします。
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香箱分解前にスリッピングアタッチメントの滑り具合をチェックします。

滑り出し前後のトルク変化はあまりありませんが、やや油っ気が少ないような感触。

ふたを外して中を見ると、こんな感じでした。とりあえず分解して洗浄します。
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針は磨き布で擦りましたが全然きれいにならなかったので、思い切って洗浄液に

漬けました。それでも変化がなくてがっかり。このままというわけにはいかないので、

組立までに何とかもう少しきれいにしたいと思います。
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次に洗浄です。この工程は、いろいろな意味で改善の余地がかなりあると

思っているのですが、現時点でこれを上回る方法が見つかっていないのが実情です。

分解した部品は、まずパーツクリーナーで一次洗浄します。ここで油汚れや

さびなど、見える汚れを落とします。次に洗浄かごに入れて超音波洗浄。
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洗浄液はPMC-10という製品で、もともとは貴金属洗浄用ですかね。

金属表面のくすみなどがきれいに取れることが多いので、使っています。

油汚れなどはあまり落ちない印象です。


超音波洗浄が終わったら、水洗いします。ここでの部品紛失が結構あります。

気を付けているつもりなんですが・・・

水洗いが終わったら、水を除去するために一度アルコールに漬けて、ブロワーで

アルコールを飛ばしてからドライヤーで乾かします。アルコールを使ったからと言って

手放しで安心できるわけではありませんが、狭いところなどに残った水により

部品がさびるというトラブルを減らすことができます。

水洗い後からアルコールに漬けるまでの時間が長いと、アルコール漬け待ちの

部品が錆びてきますので、時間との戦いです。

洗浄液に浸かっていればすぐ錆びることはないので、水洗いも2回に分け、

さびやすい部品から片づけていくやり方でしのいでいます。

また、アルコールはシェラック(シケラック)を溶かすので、爪石の固定にシェラックが

使われているアンクルは漬けません。

シェラックは振り石の固定にも使われているらしいので、テンプもアルコール漬けに

したくないところですが、サビのほうが怖いのでさっと漬けてさっと乾かすように

しています。


最終乾燥が終わったところです。ここまで来ると気が楽になります。
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とにかく洗浄工程が一番面倒で気が重いんですよね。ここをもう少し効率的に

できればいいと思うんですが。


以上、分解洗浄編でした。次回は最終回、組立編です。