SEIKO SpeedTimer 6139-6000 (組立編①)

さて、いよいよ6139-6000の最終回、組立編です。今回も素人作業の詳細を大公開しちゃいます。

まず、香箱を組み立てます。自動巻きの場合、スリッピングアタッチメント(主ゼンマイの外端に

溶接されている、ゼンマイより厚みのある部品。初期の自動巻きでは主ゼンマイと一体になっていない

場合もある)が滑り出すタイミングが重要だと思います。主ゼンマイが完全に巻き上がる前に滑り出すと、

パワーリザーブが設計通り出ないことになります。逆に遅いと、ローターからのトルクが直接輪列にかかり、

部品に負担をかけると同時に、時刻が猛烈に進むことになります。

理想的には、完全に巻き上がる直前にちょっとだけスリップして止まるというのを繰り返すのがよいようです。

これを実現するため、香箱の内周に8か所くらいの凹みを作り、ここで一度すべりが止まるようになっている

ものがありますが、私が今まで分解してきた機械の中では少数派で、ほとんどは凹みがない香箱でした。

そんな香箱でうまい具合に機能させるためには、香箱内に塗るグリスとスリッピングアタッチメントの形状、

表面の状態などをうまく調和させることが必要になると思います。表面の状態(粗さ)はコントロール

できませんので、アタッチメントの形状とグリスで何とかすることになりますが、グリスを何種類も

使い分けるというのは現実的ではなく、だいたい1種類になると思いますので、実際の作業では

アタッチメントの形状で調節することになります。早く滑ってしまう場合はアタッチメントのRを大きくします。

こうすると、香箱内での反力が強くなるため滑りにくくなります。逆になかなか滑らない場合は、

アタッチメントのRを小さくします。ただ、どれくらい曲げ伸ばしをするかというのはやってみなければ

わかりません。

何度も出し入れするのはゼンマイ破損のリスクが高くなりますので、妥協は必要です。


 以前、振り当たりがひどい時計に出会い、どうしたら直るのかいろいろやったり調べたりした結果、
 
上記のようなことがわかりました。それ以降、香箱の分解前に滑り具合をチェックし、組立後に同じような

具合になっているかを確認するようになったのですが、これを始めたらまた新たな問題が。

分解前は問題ない滑り具合だったのに、組立後はざらつき感のある滑り方になるものがほとんどだったのです。

分解組立の前後で違うのはグリスだけですから、今使っているグリスがよくないのだろうということに

なりました。

そこで、いろいろなグリスを試したのですが、手ごろな価格の製品では力不足であることがわかりました。

やみくもに各種グリスを買い集めても無駄なので、すでに手元にあるものを活用して何とかいいものに

ならないかということを考え、モリブデン粉末を買ってグリスに添加してみました。

かなりの量を入れないと滑らかになりませんでしたが、なんとか妥協できるレベルにはなり、それ以来こ

れを使用しています。今回も自家調合のグリスを香箱内に塗布し、ゼンマイを巻き込んでいきます。
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巻き込みには道具を使わず、自分の指だけで入れます。かなりの力技なので、他人様にはおすすめ

できません。 
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摺動部にグリスを塗った香箱真を組み付け、ふたをします。その後、角穴車を取り付けて再び香箱チェック。
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写真のように丸穴車に工具を貼り付け、ゼンマイを巻いていきます。この香箱は6.5周くらいで

巻き上がりますが、巻き上がってから滑り始める時の感触、トルク変化を確認します。

巻き上がったことがわかりつつ、滑り始める時のトルクがあまり強くならないこと、

滑っている時のざらつき感が(ほとんど)ないこと、などをチェック項目としています。



何やら、香箱組立だけでずいぶんと縦長になってしまい、最後まで書ききれるのか不安になってきました。



香箱の組立が終わったら、とりあえず部品箱に入れておき、地板にダイヤショックを取り付けます。

ダイヤショックには注油が必要ですが、あるべき注油状態というのがあるのを知ったのは今から2年ほど前です。

それまでは適当にぺたぺたとやっていて、あるべき状態とは程遠いものでした。あるべき状態の画像を

次に示します。
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矢印部分がオイルです。

どうやってこういう状態にするかですが、特別な道具を使わない方法としては

次のようなものがあります。

①受け石をひっくり返し、平らな面を上にする ②平らな面の真ん中にオイラーでオイルを乗せる。

塗るのではなく盛る感じです。盛ったオイルの大きさは、石の直径の半分程度を目安にしています 

③この上に穴石のついている枠を被せる。または受け石をつまんで枠に載せる 

④受け石の下に見えるオイルが真ん中にあり、輪郭が受け石の直径の1/2~2/3程度になっていればOK 

こうなれば受け石は簡単には外れないので、あまり気を使わず地板に取り付けできます。 

ダイヤショックとほとんど同じ構造になっているダイヤフィックスも、あるべき注油状態は同じですが、

穴石は地板に固定されているので受け石にオイルを盛った後に地板上の枠に被せ、

あの取り付けにくいサスマタばねを取り付けなければりません。大変難儀な作業ですし、

分解せず洗った場合はどうするのか?という問題があります。こういう場合は、裏(輪列が乗る側)

から注油し、ホゾ穴より細い棒を差し込んでオイルを受け石に接触させ、オイルの表面張力を利用して

あるべき場所に導く方法を使います。ただし、この方法は言うほど簡単ではなく、

私はどうしてもうまくいきませんでした。

そこで背に腹は代えられぬということで、高価な道具を導入しました。それがこれです。
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緩衝装置用の細いタイプ(9010注油)とそれ以外用(D5注油)の二本買いました。

これにより、注油はだいぶ楽になりました。 ということで、緩衝装置とガンギ車のダイヤフィックスには

この道具を使って注油します。
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なんと、注油二か所だけでさらに縦長化させてしまいました。はたして書ききれるのか?  


ここでガンギ車とアンクルにエピラム処理するのを忘れていたので、ここでやります。

ベンジンステアリン酸を溶かしたものが作ってあるので、これにアンクルの爪石と

ガンギ車の歯を漬けます。全体をどぼんと漬けるのが一般的なようですが、ホゾについた

被膜が悪さをしないとも限らないので、私は必要なところ周辺だけに被膜を付けるように

しています。
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ガンギはそのままですが、アンクルは爪石のガンギ歯があたる部分のみ被膜を除去します。

相手が小さいので、だいぶいい加減な作業になってしまいます。

スタジオブライトリングでは取り付けて稼働させ、ガンギ歯を当てることで被膜を除去

するそうですが、私の場合はもろもろの理由で先に被膜を取ってから注油して取り付けています。

爪石の注油は9145/2を使っています。かなり粘度の高いオイルなので、拡散する可能性は

低いと思います。エピラム処理は不要かもしれません。ナンチャッテエピラム液ですしね。 


ああ、さらに縦長化が。  


次に二番車のホゾに注油し、地板に取り付け、二番受けを締め付けます。

そして香箱、三番車、秒クロノグラフ車、ガンギ車を乗せます。

そして一番受けをセットします。
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もちろん、必要なところには注油しています。秒クロノグラフ車は一番受けでは受けないので

がたがたですが、ホゾとホゾ穴がちゃんとはまっているかどうかは確認できます。

それが終わったら、クロノグラフ部品を付けていきます。コラムホイール、発停レバー、

復針レバー、分クロノグラフ車などを指示された場所に注油しながら組み付けます。
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この後、クロノグラフ受けを被せますが、その前にクロノ起動状態(発停レバーが開いた状態)に

しておきます。停止状態ですと分クロノグラフ車が持ち上げられた状態になるため、

受けを取り付けにくくなるからです。
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この受けを取り付けたら、ザラ回しをやり、ホゾの乗り上げなどがないか確認します。

問題なければ爪石に9145/2をつけたアンクルとアンクル受けを取り付け、
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角穴車ネジを少し回してゼンマイを巻き、アンクルのクワガタをつついてピンピンと

動くことを確認します。そしてテンプを取り付けます。

取り付ける際は、アンクルのクワガタにテンワの振り石を合わせるように入れると

入りやすいです。

おおざっぱな目安としては、クワガタが右の土手に当たっていたらテンプ受けを右に90゜

くらい回して挿入し、ホゾが入ったら受けを左に戻して取り付け、という感じです。

90゜というのは感覚的なものです。

正しい位置にあればテンワが振動を始めます。そしてダイヤショックを取り付けます。
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こちらは、取り付けてから注油という方法は使えませんので、注油してから

取り付けることになります。  



だいぶ縦長になってしまいましたので、ここらで一度切ることにしますかね・・・





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