LONGINES ULTRA-CHRON にこいち化計画

以前やりました、カレンダー機構が抜き取られていたウルトラクロン。☞詳細はこちら

こいつのカレンダーを復活させるため、適価な431のジャンクを探していました。これまでに何個も落札していますが、

程度的にも価格的にも、部品取りにするのは惜しいものばかりで、数だけが増えていく状態でした。

それがここに来てようやく、比較的安価なものを手に入れることができたので、懸案であったカレンダー機構の

移植を実行することにしました。


欠品があるかもということで安価に入手した個体はこれ。
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文字盤の傷み、裏蓋の傷は多いですが、欠品がありそうな雰囲気はないですね・・・

ということで、さっそく分解に入ります・・・と思ったら、裏蓋が固くて開かない。仕方がないので

こういう時の常套手段でCRC5-56漬け。しかし、2週間経過しても緩む気配なし。

裏蓋の傷はもう気にせず、3点式オープナーをガンガン使いましたが、なめるだけ。

仕方がないので文字盤側からの分解を試みます。

風防を外しました。文字盤前面にCRC5-56が回っています。
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文字盤が取れれば、巻真が抜けて機械が出てくるかもしれないと読んでいるのですが、

文字盤が外れるかどうかが問題。通常なら干支足ねじで固定されているからです。

過去に分解した時の写真を見て、干支足の位置を確認し、ケースとの隙間に剣抜きを入れて

少しずつこじります。最悪は、干支足が取れてもいいや、と覚悟を決めています。

片側は意外に簡単に取れました。もう一方は難儀しましたが、破損なく取り外しに成功。
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見た感じ、こちら側には欠品はなさそうです。


しかし、巻真が抜けたとしても、機械が出てくるような感じがありません。同型の分解写真を

よく見たら、機械は中枠にねじ止めされ、中枠はケースにスナップリングで固定されていることが判明。

これでは機械は出てこない・・・とりあえず日の裏側は分解しますが、先に進むには裏蓋を開けるしか

方法がありません。
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何度もなめて3点オープナーの爪がかからなくなってしまったので、ドリルで穴を深くして爪が入るようにして、

再度挑戦。
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ケース側はもはや人力で押さえることができませんので、勤務先の万力を使ってケースホルダーを固定。

そしてオープナーを使って全力を投入。しかし、緩むどころかオープナーの爪が折れるだけでびくともしません。

ここに至り、ケースは完全に諦め、破壊して機械を取り出すことを決意。かつて味わったことのない

敗北感に打ちのめされた瞬間でした。


帰宅後、手持ちの切削工具で裏蓋の切開を開始。中の機械(特にローター)を傷つけないよう、

注意しながらカットしていきます。

最初に1/3周程度をカット。これで残りの裏蓋が緩むかと思いましたが、そんなことはありませんでした。

もう一回同じことをやって半分以上除去できれば外れるかな、と思いましたが、その時一つの

思い付きがありました。機械はねじ2本で中枠に固定されているけど、一本緩めれば取れるんじゃね?

ということで、機留めの位置を確認したところ、なんと、今切開したところが偶然にも機留めねじが

ある位置だったのです。そこを緩めたら、思惑通り機械が出てきました。
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今回の作業でお亡くなりになった中華謹製3点オープナーです。安い工具ですから仕方ありません。
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出てきた機械を分解します。

が、ローターが取れません!ネジは回るんですが。おかしな現象と感触に戸惑いましたが、

どうもローター受けに圧入してあるローター軸が、ねじの締め付けトルクに負けて

滑ってしまっているようです。仕方がないのでローターをつけたまま、他を分解しました。
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結果的に欠品はなかったので、今回の作業はカレンダー部品だけの移植ではなく、

機械ごと入れ替えることにしました。


さて、洗浄も終わり、組み立てを開始しましたが、トラブル続出でした。


まず地板側のキフショックバネですが、分解時に誤って脱落させてしまったので、

この取り付けから始めました。

これが予想以上に難航。過去に経験がある作業ですが、どうしてもうまくいきません。

思うように動いてくれないので、ピンセットで強くはさんだら破損。先日分解した890.1から

ばねをもらい、作業を続けましたが、その間何度も紛失・発見を繰り返すことになりました。

ようやく取り付けが終わったのは作業開始から約4時間後でした。
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その後、輪列を取り付けて
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受け・角穴車、丸穴車、等を取り付けて
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アンクル・テンプ取り付け。
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そして日の裏に行き、巻真まわり、カレンダーまわりを取り付けました。
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そしてカレンダーの動作確認。日送りレバーの突起が日送り車のカム最高地点に達した時に

日送り爪が日車の内歯を乗り越えなければならないのですが、あとわずかで届かず

日送りしないことが判明。以前出たトラブルと同じです。そこで、前回と同様、日送りレバーの

突起をたたいて延伸させましたが、結果に変化なし。
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いろいろ考えた結果、日送り爪(レバーの先端でスイングする部品)を削ることにしました。

これも、一発では決まりませんでしたが、最終的には結果オーライとなりました。


なぜ日送りしなくなるのかについては、日送り車と一緒にねじ止めされているカムが摩耗したためと

推測しています。だから、この部品を交換するのがほんとは正解なのだと思います。

摩耗した部品に合わせておかしくない部品を加工してしまうなんて、やっちゃいけないことだと思います。

よいこの皆さんは決してマネしないでください。


さて、次は機械の入れ替え対象となる時計をばらします。

文字盤のカレンダー窓を塞いでいた紙をはがして、新しい機械にセット。

次に針を取り付けますが、秒針は自動巻きモジュールをつけてないと秒カナが

飛び出してしまって取り付けられないので、自動巻きモジュールを組み立てます。
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ローターがついたままなので組立作業も取り付け作業もちょっと大変でした。

秒針もついて、ケースに入れました。
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完成しました。手間も時間もかかりましたが、カレンダー復活です。
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残った部品は、次の活躍のチャンスが訪れるまでスタンバイ。
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今年の投稿はこれが最後になります。今までご覧いただきありがとうございました。

来年は分解頻度が落ちると思いますが、腕時計ネタ100%で続けたいと思いますので

引き続きよろしくお願いいたします。よいお年をお迎えください。