パワリザが短い時計(1)

今日は、前回予告した通り、パワリザが短い自動巻き時計について書いてみたいと思います。

諸般の事情で一週間以上空いてしまってすみません。


本日のモデルはシチズンセブンスターV2です。写真のタイムスタンプを見ると、メンテが完了したのは

'11/12月ですが、最初からパワリザが21時間程度でした。一度は売却を考えましたが、

買い手が付かなかったので放置。その後、一度使ってみましたが、やはりパワリザは短いままだったので、

何とかしてみることにしました。

前回書いた通り、自動巻き機構と香箱のどちらに問題があるのかを切り分ける必要がありますが、

これまで切換車に問題があった例が多かったので、いきなり切換車の洗浄を行いました。

これでいいはず、というわけで一日使ったのですが、結果的には全然改善していませんでした。


それじゃあ、ということで初心に立ち返り、オートワインダーで半日回したのちに放置した結果は、20時間。

これでようやく香箱に問題があると判断。

香箱を取り出してチェックをしてみると、滑り出すタイミングがちょっと早いような気がする上、

滑り量も多い感じ。滑った後に戻してみると3周半くらいでした。

シチズンの輪列の歯数をちゃんと数えたことはないのですが、だいたい香箱1周7時間とすると24時間くらい。

まあまあそんな感じですね。これで香箱に問題があることがはっきりしました。


そこで、分解します。使われていた油脂は、モリコートDX。この香箱に使うには潤滑性が高すぎる

ということでしょう。

香箱とゼンマイを脱脂した後、メービス8200を付けてみました。さらに念のため、スリッピング

アタッチメントを少し平らに伸ばしました。これでゼンマイを巻き入れて、再度香箱チェック。

しかし、これでも潤滑がよすぎるようで、滑り始めると一周以上滑ってしまいます。

そこでさらに潤滑性の低い(相対的に)メービスのD5を少量塗布してみたところ、

ようやくスリップが適度になり、凹み一つずつ滑るようになりました。



ここで香箱の内側の構造について。

自動巻き時計における主ゼンマイの滑らせ方には二種類あるようです。

一つは、ゼンマイの端が香箱内周に掘られたくぼみに引っかかることで滑りを止めるもの。

次の写真はセブンスターV2の香箱ですが、内周に凹みが見えます(黄色丸部)。

全部で6個の凹みがあることになります。
イメージ 1


この構造を採用しているのは、私が知っている範囲ではシチズンETAだけです。

次の写真は主ゼンマイの端ですが、Rのきつい部分が香箱の凹みに引っかかるものと

思います。
イメージ 2



もう一つは、スリッピングアタッチメントで香箱内周に押し付けられた主ゼンマイの摩擦抵抗で

ゼンマイのスリップを止めるもの。セイコーの時計などはこちらのタイプと言っていいと思います。

写真は、たぶんセイコーの香箱だと思いますが、凹みがありません。
イメージ 3



どちらの構造にも一長一短があり、単純に優劣はつけられないと思いますが、個人的な

好みで言うと、セイコー式が受け入れやすいかな・・・


ということで、セブンスターV2の場合は前者のタイプになるわけですが、セイコータイプの

香箱ではちょっと力不足のモリコートが、セブンスターV2では滑り過ぎることが、今更ですが

わかりました。同じ自動巻きの香箱ながら、それぞれに使用すべき油脂がかなり違うわけです。

各社が香箱用に指定しているグリスは、各社が採用している香箱に適した特性を持っている

ということですので、いろいろなメーカーの香箱を分解するなら、一種類のグリスだけでは対応

しきれないということですね。

まあ、香箱は開けないと割り切れば、グリス自体がいらなくなりますね。それも一つの考え方です。


以上、見当外れなことを書いているかもしれませんので、話半分としておいてください(^_^;


今回のセブンスターV2は、手間をかけたかいあって、パワーリザーブが41時間まで回復しました。

同様のトラブルを抱えていた別のセブンスターV2も、同じ方法でパワリザを回復しました。

しかし、なかなか治らない時計もあるんですよね・・・次回以降、そんな時計のことを

書いてみたいと思います。いつになるかわかりませんけど・・・