SEIKOMATIC-R 8306-9000の切換車

約1年前に分解したセイコーマチック-Rです。
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直後は37時間のパワリザを有していましたが、久しぶりに月曜日に使ってみたところ、

約27時間で止まってしまいました。最近のマイブームである切換車のメンテ不良に違いありません。

とりあえずやることは切換車の洗浄です。

ここんとこ、いろいろな切換車をいじってきた結果、洗浄液につけて超音波洗浄するよりも、

洗浄液の中で何回転も動かすほうがきれいになるらしいことがわかってきています。


洗浄して乾燥させた後、注油をどうするか考えました。考えたって答えは出ないので、先日手に入れた

'68 SEIKO紳士用ウォッチ技術解説書をひもといてみました。目次を見ていくと・・・

ありました!「その他のキャリバー」の章に「83系のアフターサービス」が!

早速そのページを開くと、なかなか興味深いことが書いてありました。83系は、51, 56系と基本的に

同様のメンテでいいが、切換車については51,56系がツメ式なのに対して83系はローラー式の

反転車なので、修理の方法が異なる、というのです。

反転車ということばは、以前どこかで見たことがあるのですが、どんなものかはわかっていませんでした。

解説書の図を見ても、最初はよくわからなかったのですが、じーっと見ていると、理解できました。

下の図の左下にあるのが反転車です。その中に黒い丸が3つありますが、これがローラーで、

中心の軸と反転車の内周に挟まれています。反転車が左に回転すると、隙間の狭い方にローラーが

導かれ、つっかえ棒となって反転車の回転が軸に伝わります。右に回転するとローラーは隙間が広い

方へ行くので駆動力が途切れます。
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また、注油やエピラム処理はするなと書いてあります。

この指示に従い、洗った反転車をそのまま取り付けました。ローターの回転具合は明らかに違います。

パワリザも38時間となり、納得の結果です。


まとめると、ツメ式の切換車はツメ車にごく少量注油。ローラー式の反転車は注油不要。

いずれもホゾには注油。おそらく、セイコー以外の機械でも同様だと思います。

ツメ式かローラー式かがわかれば、どうすべきか方針が立つ、ということですね。


ツメ式のツメはコの字形になっていて、両側にツメがついています。空回り時はこれが交互に

ツメ車の歯に当たり、シーソーのように動きます。接触頻度は多いので、長い目で見た場合に

とがった爪先の摩耗は致命的ですので注油が必要になるのだと推測します。


また、触れないわけにはいかないETAの切換車ですが、動作原理としてどちらだと考えたらいいか

非常に悩みます。一見、ツメ式のようにも思えますが、押すか引くかで分けるとしたら、押す方なので

ローラー式になります。そういう分類自体がすでに間違いかもしれませんが、顕微鏡の下で

動作を観察しますと、セイコーのツメ式ほどツメとツメ車の接触頻度は高くないようです。

また、ツメ先のようにとがった部分もないため、摩耗による不具合も起きにくいのではないかと

思うのですが、ブライトリングの技術者によると速く手巻きすることにより切換車がダメージを

受けるそうなので、やはり何らかの潤滑は必要なのでしょう。

じゃあ、どこに注油するのか?と聞かれたら、空回り中に接触しているのはあそこだけなので、そこに

注油すればいいことになります。

下の写真は古いETAの切換車を分解した写真ですが、○印か矢印(歯底ではなくて歯先狙い)の

どちらかに注油するということです。
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セイコーの指示のような納得性はあまりないのですが、そうとしか考えられません。

もしかしたら、急速な手巻きによるダメージと注油指示は直接関係ない、つまり注油してあっても

急速手巻きをすると傷む可能性もありますが、これは頭の中で考えてもどうしようもないことですので、

急速手巻きでダメージを受けた実物を手に入れて検証したいところです。


ということで、切換車の注油についてもう一度まとめます。

1. ツメ式切換車はツメ車の歯面(背)に注油
2. ローラー式反転車は無注油
3. ETAなどのフリクション式(※)はあそこに注油。しなくても問題ないかも。
4. ホゾには注油(共通項目)

今後は上記の方針で作業したいと思います。


(※)唐突に出てきましたが、ETAの切換車のツメの動きが、ロック方向に回った時にツメにかかる

わずかなフリクションで動いてロックすることから、勝手に命名しました。このブログの中だけの言葉です。