ELGIN AUTOMATIC 25J ETA 2789

忙しい方に、本日の概要

福本エルジンを含め、エルジンブランド時計を分解するのは初めて

風防は金剛砂で傷取り後、包丁研ぎ機で研磨。研磨時、電動ドライバーを併用することで曲面も比較的均一に仕上げられた

ケースはグラインダーで傷取りをし、バフでポリッシュ

機械はETA 2789。初めてのNo.だった

分解前から曜車の動きがおかしかったが、躍制レバーバネ折れと判明。当然部品はないので素人修理。

無事修理完了

後は下の画像を流し見してください


エルジンです。日本の福本エルジンではありません。モデル名もわかりません。
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福本エルジンの、ロレックスに勝訴したというDEEPSEAは愛用していますが、本家?のエルジンは初めて分解することになると思います。

エルジンといえばアメリカ発祥で、懐中時計ではブイブイ言わせていたというイメージがありますが、腕時計ではどうなんでしょう。あまり評判を聞かないですね。

この時計も、何の変哲もないモデルです。裏蓋には刻印が施されていますが、彫りが非常に浅い上にひどく中途半端な意匠なので、安物感ぷんぷんです。
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その裏蓋を外します。
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機械はETA2789。以前やったことがあるか?ローターの軸受けがボールベアリングじゃないのは今までにもありましたが、このメタルの形状は初めてのはず。

いずれにしても、パワリザに関してはいい結果が出なさそうな機械です。

機械をケースから取り出します。針と文字盤は、まあまあ、悪くない状態だと思います。曜日が変です。
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その針と文字盤を外します。緑と赤文字の曜車というのも初めてですね。
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赤文字の日車は、ラドー、ウォルサムに続いて3ブランド目。

曜車を外すと・・・このカレンダーの仕組みは初めてです。同じ機械No.でもこんな違うのか?と思ってよく調べたら、やったことがあるのはETA2879でした。紛らわしい。
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分解前のチェックで、曜車の動きが変だったので、その原因調査と対策が今回のポイントでしょうか。

真ん中のカラーは曜車の回転軸になります。曜車がない機械に後付けした感じが伝わってきますね。

日/曜送り車が物々しいので瞬間送り機構でも仕込まれているのかと思いましたが、夜中のカレンダー早送り時に送り爪を逃がす機構になっているようです。

つまり、早送り禁止時間帯がないということですね。
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次は表側です。こちらはよく見るETAの機械と変わりないようです。どんどん分解します。
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香箱は分解前にスリップチェック。スリップトルクは大きくなく、スリップもノッチ一個ずつ(たまに2,3個飛ばしで)滑る感じなので、今度もゼンマイは出さず、香箱真周りのみ洗浄注油としました。
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洗浄が終わったところで、部品の飛ばし・紛失はなし。これが本来の姿のはずですが、すげースムーズに行っている感じ。

勢いに乗って組立に入ります。インカブロックをつけて注油して輪列を並べて受けをかぶせ、ザラ回し、アンクル取り付け、テンプ取り付け。
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日の裏に行って巻真周り、カレンダー部品を取り付けていきます。
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いくつか着磁している部品があったので、脱磁しながら組みつけていきますが、その時曜躍制レバーバネつきカレンダー早送り車押さえのバネが折れているのを発見。

やっちゃった?
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でも、ちょっと押してこすったくらいで折れるようでは躍制レバーバネとしては強度不足では? 

ということで、分解時の写真を見直したところ、その時点ですでに曲がっていて、躍制レバーを押していないことがわかりました。

自分が折ったんじゃないこと、曜車の動作がおかしかった理由が同時にわかったのでほっとしました。

ほっとしたのはいいのですが、このままでは曜日の表示が使えません。何とか修理方法を考えます。

最初にどこかからバネを持ってきて、押さえと共締めしてやろうかと思いましたが、やってみるとバネの太さ分ネジの頭が高くなり、曜車と干渉するので断念。

躍制レバー周辺には、高さ方向の余裕はありませんが、横方向にはスペースがあるので、何とかなりそうな気はします。

固定は、できればネジがいいのですが、どうもそれは無理っぽいので接着剤を使うことにしました。

まずはトライ1。このレイアウトで一日放置し、接着剤が固まってから曜車をつけてみました。しかし、躍制レバーのストロークが確保できず、またバネがすぐ外れてしまうので却下。
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で、トライ2はこんなレイアウト。
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なんか行けそうなので、このまま組み立てました。


さて、外装です。風防は緩やかな曲面のガラス。傷はそこそこあるので、傷残り確認用マジックを塗ったらほぼ全面が黒くなりました。
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いつもは手でやるのですが、曲面を出来るだけ均一に滑らかにするために、電動ドライバーを使用。

手でやると、単一の曲面ではなく、極端に言えば多面体になっちゃうんです。

アタッチメントの先に風防を貼り付け、金剛砂の入った皿に押し付けてドライバーのSWをオン。

最初なので要領がわからず、時間がかかってしまいましたが、多面体ではなく曲面は維持できたようです。

これを、今度は包丁研ぎ機で研磨仕上げ。包丁研ぎ機とドライバーの二つの回転で効率大幅アップ!と思いきや、時間はそれほど変わりませんでした。

しかし、表面の光の反射を観察すると、手作業で磨いたものに比べれば均一な曲面になっていることがわかります。

ま、多少多面体になっていても、あまり気にならないんですけどね。

ケースはヘアラインの場所は手をつけず、ポリッシュのところだけグラインダーで傷取り、そしてバフで磨きます。

裏蓋は、浅い彫り込みが消えたらみすぼらしいので、グラインダーでの傷取りは最低限にしました。なので、傷がまだ結構残っていますが仕方がありません。

これらを組み立てなおした後、機械を入れます。

自動巻きモジュールを取り付けて、ローターを取り付けて、完成です。・・・
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完成したんですが・・・曜日を早送りしたら、最初はスコッスコッと変わったんですが、そのうち動きがぬるぬるしてきて、躍制レバーバネがほとんど効いていない状態に。

バネがレバーをしっかり押さなくなってしまったようです。バネの先端がストレートなので、レバーの上か下に入り込んでいると推測します。

対策としては、バネがずれても曜車または地板と躍制レバーの隙間に入らないように、先端を少し曲げてやればいいでしょう。

一日使ってパワリザを確認した後、修理することにしました。

ローターの軸受けが滑り軸受けの機械で40時間を越えるパワリザを持つ時計は、今までありませんでした。

だから、この時計もたぶん30時間前後じゃないかと思っていましたが、意外にも40時間動きました。ちょっとびっくりな結果でした。

さて、では修正です。

面倒ですが、また機械を取り出して針と文字盤を外します。ゆっくり曜車を外してみると、バネの先端はレバーの上に乗り上げていました。

このバネの先端を、いろいろ試行錯誤した結果、下に曲げてやることに落ち着きました。
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これで文字盤をつけて動作確認をしたところ、思惑通り何周回しても期待通りの動きを続けてくれました。

ということで、これにて一件落着。